「昔の貧乏」と「今の貧困」
ナビ部アラカルト
2016/09/10
もう一つの高校 その2
前回では、今の日本には「見えない貧困」があることを紹介した。そのことについてもう少し考えてみよう。
「ナビ部」を読んでくださっている高校生の皆さんのお父さん、お母さんは40代から50代、すでに日本が経済大国になってから大人になった世代だ。「豊かな暮らし」が当たり前になっている。でもお祖父さん、お祖母さんの世代の日本は貧しかった。
1945年8月にアメリカなど連合国に負けて、日本の経済はどん底状態になった。餓死者が出て、町には家を失った子供がさまよっていた。今の中東やアフリカなどの難民キャンプのような状態だった。
しかしそれは、短期間で終わった。アメリカなど連合軍は日本を1953年まで占領したが、この間に経済支援を行い、産業の発展を強力に後押しした。
日本は敗戦からV字回復したのだ。
軽工業から重工業へ、産業の規模が大きくなるとともに、日本は多くの労働力を必要とするようになった。
1950年代半ば、そうした産業界の要請に応える形で登場したのが「金の卵」だ。
すっかり死語になってしまったが、「金の卵」とは、地方の中学を卒業して、都会に集団就職で働きに出てきた労働者のことを言う。
どの会社も人手が足りなかったから、こういう地方出身の労働者を大切に扱った。「彼らはうちの会社の“金の卵”だ」と言った。
1950年代まで、地方では中卒で働きに出る人が4割近くいた。
確かに「金の卵」を会社は大歓迎したが、その待遇は会社では一番下。
小さな社宅や借家に住み、家財道具はほとんどない。テレビや電話もない。外食はもったいないから、家でご飯を炊いて食べる。
今から見れば、「何にもない」生活だったのだ。
もちろん、その頃からお金持ちだった家もあるだろうが、当時、都会に出てきた人たちの生活は貧しかった。
「結婚したときは、テーブルもなくて、リンゴ箱の上にお茶碗を置いてご飯を食べた」みたいな昔話をするお年寄りも多い。
着るものもなく、娯楽も少なかった。
映画「ALWAYS三丁目の夕日」は、1964年の東京オリンピックを控えて、東京タワーが立ち、高速道路が通り、どんどん町が変わっていく東京の下町を描いている。人々は貧しかった。
でも、この頃の日本経済は急成長していた。
中卒の社員の給料もぐんぐん上がった。
長屋暮らしだったのが、新しくできたアパートに引っ越し、テレビ、冷蔵庫、洗濯機という「三種の神器」をそろえ、その次にはカラーテレビ、クーラー、自動車(Car)の「3C」をそろえ、生活も変わっていったのだ。
中卒で会社に入った人の多くは、出世はしなかった。しかし、この頃の日本の会社は「終身雇用」だったから、出世はしなくてもクビになることは少なかった。また給料は「年功序列」だったから、毎年上がっていった。
企業の中には中卒で入った社員に、夜間高校に行くことを奨励する会社もあった。大学まで卒業した人もたくさんいる。
1973年に円が変動相場制に変わって、高度経済成長は一区切りがついたが、このころまでに日本は高度経済成長によって先進国の仲間入りをした。
1950年代の日本の人々の生活は確かに「貧乏」だった。電話やテレビはないし、外食もできないし、おしゃれもできない。今のフリーターの人々と比べても、はるかにまずしかったと言える。
でも、そんな時期を経験してきた、高校生の皆さんのお祖父さん、お祖母さんにとって、そういう過去は、決して嫌な記憶ではなかったはずだ。懐かしそうに当時を振り返る人も多いはずだ。
それは、当時の人々は自分だけが貧しかったわけではなく、日本全体が貧しかったから「劣等感」を抱く必要がなかったからだ。
そして何より貧しくても「希望」があったからだ。
苦しい生活でも、我慢して働き続ければ給料は増えるし、生活は楽になる。事実そうなっていったのだ。
ここが今の「貧困」とは最大の違いだ。今、日本で「貧困」に苦しんでいる人の多くは、一応住むところがあり、スマホを持ち、テレビを見て、外食をすることができる。ネットだって使える。昭和の昔に比べれば、物質的にははるかに恵まれている。
しかし今は、お金持ちの人も多いので、貧しいことは「劣等感」につながる。つまり「貧富の差」がはっきりしてきたのだ。
そして、今、定職に就いていなかったり、リストラされたりした人は、当面の暮らしは大丈夫でも、将来が全く見えない。「希望」がないのだ。
昔の「貧乏」と今の「貧困」の違い、おわかりいただけただろうか?
有名な評論家の中には
「昔は四畳半一間で子供を育てながら働くのが当たり前だった。今の若い人は辛抱が足りない」
「貧乏だからと言って文句を言ってはいけない、もっと我慢しないと」
と言う人がいる。
そういう人は、昔の「貧乏」と今の「貧困」の違いがわからないのだ。
次回は、なぜ日本の国は変わったのか。今の「貧困」はなぜ生まれたのかを考えていこう。
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